10 モアザンワーズ side B

「カメレオンみたいで綺麗な色」

あの人から手渡されたそれは、想像していたよりももっとしっとりした肌触りで、シリコンのベルトはわたしの左手首にぴったりと馴染んで、ついじっとそれに見入ってしまった。

見入ってしまった自分にはっとして気づき、それを誤魔化す必要も無いんだけど、なんだか少し恥ずかしくてあなたの左手に、わたしのその左手を重ねてみた。

少しだけ触れたあなたの腕の感触。

その腕はカメレオン色の腕時計のシリコンのバンドよりも、わたしの肌に、温かに、しっくりと馴染んだ。

「これでひとつ、想い出ができた」

想い出が欲しかったわけじゃないけれど、このままなにも残らずに終わるのも淋しかった。

せっかくの別れるための彼氏との記憶は、せめてどこかに残しておきたいという気持ちは本当だった。

「似合う。とても」

あなたはそう言った。

でしょ?

あなたの時計をひと目見たときから、きっとそれはわたしにもとても似合うって思ってたもの。

あなたと同じ何かを身につければ、わたしはまたこの日のことを思い出せる。

雨が降ってきた。冷たい雨。

雨はいつもわたしの邪魔をする。

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