09 モアザンワーズ side A

「カメレオンみたいで綺麗な色」

Dinningを出たのはまだ20時前で、キミが最後にぼくが左手に巻いている時計とおそろいのが欲しいと言いだしたので、ぼくたちは地下通路を使って新宿駅のデパートまで早足で歩いた。

キミの歩く速度は想像していたよりもずっと早くて、時々ぼくは置いてきぼりになりそうなほどだった。

ショップにに着いたのは、閉館ギリギリのタイミング。

息を切らしながらショーケースに顔を近づけるキミの姿はとてもキラキラしていて、キミはすぐにボクのものよりワンサイズ小さい同じ色のカジュアルな腕時計を見つけ出し、

「自分で買うからね」

と、財布を出しかけたぼくを牽制してそそくさと店のスタッフを呼びレジに向かった。

もどかしいように店を出る前にすぐショップの袋と包装紙をバリバリと無頓着に引きはがし、ケースから出そうとしたけれどケースの開け方がわからずに、つっけんどんにぼくにそのケースを差し出してきたから、ぼくは下箱を横から指を密着させ透明の上箱をスライドしてケースを開く。

もどかしそうにキミはぼくの手からケース時計を奪い取り、タグを引きちぎって、自分の左腕に着けた。

「やっぱりカメレオンだ」

キミは必要以上ににやにやしながらそう言って、時計をはめた左手首を、ぼくの同じ時計の左手首に重ねてきた。肌が触れた瞬間、君への想いが一瞬決壊しそうになった。

「これでひとつ、想い出ができた」

そう言ってキミはその左手に着けた時計を、30秒ぐらいじっと見つめていた。

「似合う。とても」

とぼくが言うと、キミは「ふふっ」と本当に嬉しそうに笑った。

本当に、これでお別れなのか?

そのセリフをさっきから心の中で何度繰り返したことだろうか。

少なくとも昨日の夜からいままで、ぼくたちは普通の恋人のように、いや、ひょっとしたらそれ以上に、いい空気で過ごしてきたと思う。

だからぼくは、このままなし崩し的にぼくたちはカップルとして、また明日から同じ時間を過ごすことになるんじゃないかと少し期待していたが、キミはどうやらはじめのルールを守るつもりだということが、Dinningでの会話で確認できた。

気持ちは、わからないでも、ない。

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