08 where are we now

はじめに「約束」があった。

約束というか、ルール。

「僕は、別れるために彼氏が欲しい」

わたしは自分のミニブログにそう書き込んだ。

気まぐれだったけど、でもそれは本当の気持ちだった。

どんな男だって別れるために彼女が欲しいわけがない。

手を上げる男なんていないと思っていたら、たった一人、そのわたしの求愛に答えてきたのがあなただった。

わたしはあなたのことをミニブログを通じて少しだけ知っていて、言葉だけのその世界で、多分私たちの言葉はぴりぴりと時々共振していたようなきがしていた。

そしてわたしたちは約束した。

別れるための恋人になることを。たった、一日だけ。

だからあなたはいまこうして、新宿の地上200mのDiningでわたしの前に座っている。

最後の時間を迎えるために。

ここに来たのはわたしの希望。

別にどこでも良かったし、新宿はとてもよく見慣れた街なんだけど、なぜかこの人とはこの場所がいい気がした。

本当はマックでも立ち食い蕎麦でもなんでも良かった。

なぜなら多分この店を出たら、わたしたちは別々の方向に向かう。

なら、別れの場所はどこだって変わらない。

記憶に少し残るか、忘れ去るかだけの差だから。

あなたはシャンパングラスの中身について語っている。

注文したこのシャンパンはベルギーのなんだかややこしいシャンパンみたいな名前の街にあるサーキットで、取材していた二輪グランプリの優勝者からお裾分けしてもらって飲んだこととがあるって話。

自慢じゃなくって、それは彼が自分の趣味について小さくてやんちゃな男の子みたいに熱く語りはじめただけで、かわいいなって思う。

ずいぶんと年上なのに。

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