07 Cherry Flow

全天球がガラス張りで360度どこを向いても宙に浮いている状態というのは、実はあまり得意な状況ではなかった。

高所恐怖症というのは突然なるものだというのは、ある程度の年になってから知った。

ぼくの場合は去年、2年ぶりに乗ったアムステルダム行きの飛行機が成田から離陸した瞬間がそれだった。

自分の足の下に地面が存在しないことをイメージした瞬間に、全身が震えて、ああこれが高所恐怖症なのだと知った。

高速道路のサービスエリアでランチをすませ、正午を回って、ぼくたちはそれ以上西に行くのをやめて、一旦インターチェンジを降りて、降りた場所で観光するわけでもなくそのまま折り返し、東に戻った。

「観覧車に乗りたい」

とキミは言って、ぼくたちは海沿いのレモンを切ったようなホテルの横に大きな観覧車がある街に戻った。

1周約15分。

二人の間の距離感は観覧車に乗ったからといって劇的に変化するわけでもない。

こわごわガラス張りのその、なんと呼ぶかわからない横向きの円柱状のそれに乗り込み、正面に座るキミが上昇するにつれてだんだんワクワクした顔になって行く様子に集中することが、唯一の高所恐怖症からの逃避の方法だった。

ゆっくりジワジワ高度を上げていくその密室の中で、向かって右の景色を眺めていたキミの頭が、左に向かおうとした瞬間に、電話のベルが鳴った。

聞き慣れた着信音だったから、自分の電話かと思ったが、鳴っていたのはキミの電話で、キミはスリープ画面に表示された相手の名前をちらっと見て、5秒ほど躊躇してから応答ボタンを押す。

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