05 Melancholia

高速を降りてからずっと海岸線に沿った細い国道をキミはクルマを走らせ、夜が明けてからカフェで一休みした後、ぼくとキミは手近なインターチェンジ近くのラブホテルに向かうことにあっさりと同意した。

夜通しクルマを運転してきたキミが、あまりに疲れていて、ぼくは運転を代わろうとしたけれど、保険の契約がどんなのだったからわからないという理由でそのアイデアは却下され、ぼくはキミがかなり疲れ果ててしまっていることに気がついていたから、ラブホテルで文字通り「休憩」しようというぼくの提案をキミは別段特殊なこととしてとらえることなく受け容れてくれた。

キミはハンドルを左に切り、田園風景の向こうに見える恐らく夜景でみれはギラギラとネオンが輝く建物の方に向かう。

国道から少し脇道にそれてガタガタした舗装路を走り、躊躇なくキミは一番はじめに現れたフランス語のリゾートっぽい名前の、でもわりと寂れた看板のホテルの入り口でハンドルを切った。

都会のラブホテルと違って地方のそれはひと部屋ごと駐車スペースがあって、その中に案内板と部屋へ昇る階段の入り口が用意されている。

キミはその駐車スペースにクルマを頭から突っ込んで、少し乱暴にパーキングブレーキを引き上げた。

「お疲れ様でした」

正面を向いたまま疲れた顔のキミはそうぶっきらぼうに言い放ち、ドアをバタンと開けてクルマから降りる。

キミがドアを閉じるのと同時にぼくもドアを閉め、その音が鳴ると即座にキミはリモートでドアをロック。

もしかしたらこういうタイプのラブホテルには慣れていないのか、あるいは少しほっとしたのか、キミはどこか落ち着きなくて向かう先を咄嗟に判断できない様子だったから、ぼくは駐車スペースの脇にある階段の入り口のドアをベルボーイのように開け、キミに向かって軽く頭を下げて会釈すると、キミはそんなぼくの存在をまったく無視してつかつかと歩み寄り敷居をまたぎ、鉄製の階段を昇っていく。

緊張しているんだ。ぼくはそう気づく。

だってはじめての、ラブホテルだ、ぼくたちふたりにとって。

実際にそれほどの邪心はないけれど、それでも多分ぼくたちが入る部屋の隣では男と女が折り重なりあって、そういう行為がなされている、そういう場所にこれから一緒に二人きりではいる訳だ。

キミはわざと力を入れているのか、両足のヒールを階段のステップの、古びた千鳥模様のの鉄板に当ててカツカツと音をたてて階段を昇る。

ぼくはキミと同じ速度で、5段くらい後ろからついて行く。

ふと視線を上げると、決して長くはないキミのスカートの裾から太腿のかなり上からふくらはぎまでのラインがぼくの目に飛び込み、ラブホテルの部屋への階段を昇っていくというシチュエーションだからそれは当然のことなのに、なぜだか急にぼくはキミに明らかに性的な感情を抱いてしまった。

もちろん、ぼくだけでなくキミのそんな後姿を見たら、世界中の男は同じことを感じるはずだ。

「ここ?」

外観からは個別のコテージのように見える部屋も、中に入ってしまえば長い廊下で繋がれたひとつの建物になっていて、キミは階段の右側の一番手前の部屋のドアの前を指さしてそう言った。

「いや、多分こっちだ」

反対側のドアの前のランプがチカチカ回転している部屋を指さし、彼女がその前に辿り着くとガチャリとドアを開ける。

ドアノブの金属に触れるキミの指先でさえ、性的だ。

この場所では。

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