04 New hope

「ねえ、じゃあ、どこでセックスする?」

特別大きな声だったわけじゃないけど、普通はひそひそ話でする内容を普通の声で話すわけだから、多分キミと同世代の休日のドライブの始まりを迎えている海沿いの朝のオープンテラスの小洒落たカフェにいるカップル達が、一斉にキミの顔を見るために首を捻って振り返るのは無理がないと思う。

だけどキミの言葉は別段「あなたたちとわたしはは違うのよ」という他者との差異をあからさまにアピールするための演出というわけでもなく、ただキミは自分の価値観で普通にしゃべっているだけだから、ぼくはそれに対しての嫌悪感は抱かない。

特別かどうかなんて、目盛りが付いていない感情の振幅なんだから、多少のことは誤差の範囲内にすぎない。

みんなはそれを他人と合わせて平均化することで安心感を得ようとしているけれど、ぼくやおそらくキミも、そこに安心感を感じられないから仕方がない。

普通に考えていることを口にするだけで、ときおり違和感をまき散らしてしまうのは、ぼく自身の体験で充分慣れている。

「するのか?」

と、ぼくは語尾を少しだけ跳ね上げながらそう答える。

「しないの?」

キミの声のトーンは、周りからの注目を浴びたところで変わらない。

もちろん今度も無理に張り上げていない。

ひと言で言えば、ぼくたちはこういう会話にたいするまわりの反応にもう、慣れているし、そもそもまわりが同反応するかなんてことに興味はなくて、単にお互いのコミュニケーションの間にノイズが入ることを避けることの方が大事なだけだ。

「朝からセックスかぁ」

べつにしたくないわけじゃない。

だが、そういうのって、案外一度してしまったばかりに、それでお仕舞いってなりがちだから、そこのことがちょっと怖いだけだ。

男なら性欲を満たす方法はいくらでもある。

最も簡単な方法は風俗だ。

女の口の中に射精するだけなら、女とちょっと良い飯を食うのとほぼ同等のコストで果たすことができるじゃあないか。

大事なのは愛のあるセックスだって?

ふざけるな。少なくともぼくは、その風俗嬢とでさえ暫定的な恋愛関係を築く事ができる自信はある。もちろん相手の程度や好みに対するマッチングによりけりなんだけれど。

「まあそうね、しようって話でここまで来たわけでもないし」

メニューで見たけれどもう名前を忘れてしまった赤い果実を、カフェ自家製のヨーグルトに入れてかき混ぜながらキミはそう答えた。

「しないとも言ってないし、だいたいキミはセックスの話ばっかりしているし」

キミと出会ったあのミニブログで、きみは週に2,3度はセックスについて語っている。しかも、相手はたいてい男だ。

見ず知らずの。

あるいは時に、今しがた「し方終えて」きたことを匂わせる投稿もしばしば見かける。

ぼくがそう言うと、花弁の形をした透明なガラスの器に入った純白のヨーグルトと赤い果汁を滲ませる果実を、銀のスプーンでグルグルかき混ぜてたキミの手が止まる。

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