猶予月の物語(第一部/完結済み)

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01 a highway hymn

ぼくたちの「さよならするためだけのデート」は、金曜日の夜10時から始まった。 クルマの窓の外に見える景色が、ぶちまけられた濃厚な墨汁がどろりと流れ出しているように見えるのは、夏の湿度のせいないのか、それとも自分はクルマを運転しないで助手席に座り、今日はじめて出会ったキミがハンドル[...]

02 Trust me

昼間なら難なく降りることができる海岸沿いの砂浜に降りる階段も、深夜の闇の中ではやや様子が違った。 「だいじょうぶだいじょうぶ」 と言いながらぼくより先にその階段を軽やかに降りはじめたキミは、数歩進んだところでふらっとよろめいて、何となくそんな予感がして後ろから離れずについていたぼ[...]

03 あの人とキミ

「オレンジジュース飲みたい」 夜明け前の国道の片道一車線の路側帯の横に薄暗く光る自販機を見つけたキミは、クルマを停めてボクの方を見ることなく真っ直ぐそ正面の暗くて細い道路の先を向いたままそうつぶやいた。 「わかった」 ぼくはポケットをまさぐり小銭を確認してからクルマのドアを開け、[...]

04 New hope

「ねえ、じゃあ、どこでセックスする?」 特別大きな声だったわけじゃないけど、普通はひそひそ話でする内容を普通の声で話すわけだから、多分キミと同世代の休日のドライブの始まりを迎えている海沿いの朝のオープンテラスの小洒落たカフェにいるカップル達が、一斉にキミの顔を見るために首を捻って[...]

05 Melancholia

高速を降りてからずっと海岸線に沿った細い国道をキミはクルマを走らせ、夜が明けてからカフェで一休みした後、ぼくとキミは手近なインターチェンジ近くのラブホテルに向かうことにあっさりと同意した。 夜通しクルマを運転してきたキミが、あまりに疲れていて、ぼくは運転を代わろうとしたけれど、保[...]

06 SEX

「2時間寝る。起こして」 と君はぼくに命令した後に、 「寝てる間になにしてもいいけど、僕を起こしたらぶっ殺すからね。寝起きはあまり良くないんだ」 と続けた。 そう言い終えたキミはその10秒後に、瞳を閉じて、下弦の月のような綺麗なまつげを呼吸に合わせてゆっくりと揺らしながら、すーす[...]

07 Cherry Flow

全天球がガラス張りで360度どこを向いても宙に浮いている状態というのは、実はあまり得意な状況ではなかった。 高所恐怖症というのは突然なるものだというのは、ある程度の年になってから知った。 ぼくの場合は去年、2年ぶりに乗ったアムステルダム行きの飛行機が成田から離陸した瞬間がそれだっ[...]

08 where are we now

はじめに「約束」があった。 約束というか、ルール。 「僕は、別れるために彼氏が欲しい」 わたしは自分のミニブログにそう書き込んだ。 気まぐれだったけど、でもそれは本当の気持ちだった。 どんな男だって別れるために彼女が欲しいわけがない。 手を上げる男なんていないと思っていたら、たっ[...]

09 モアザンワーズ side A

「カメレオンみたいで綺麗な色」 Dinningを出たのはまだ20時前で、キミが最後にぼくが左手に巻いている時計とおそろいのが欲しいと言いだしたので、ぼくたちは地下通路を使って新宿駅のデパートまで早足で歩いた。 キミの歩く速度は想像していたよりもずっと早くて、時々ぼくは置いてきぼり[...]

10 モアザンワーズ side B

「カメレオンみたいで綺麗な色」 あの人から手渡されたそれは、想像していたよりももっとしっとりした肌触りで、シリコンのベルトはわたしの左手首にぴったりと馴染んで、ついじっとそれに見入ってしまった。 見入ってしまった自分にはっとして気づき、それを誤魔化す必要も無いんだけど、なんだか少[...]

彼は彼女と出会った。ネットという不確かな空間の窮屈さに我慢できずに。

はじめてで会った彼女は、知らない間に膨らんでいた彼の妄想と同じように

キュートで、愛すべき、そして少しだけ複雑な女だった。

彼女の求める「別れるためのデート」の24時間が、始まる。

01

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