01 JUN

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暗い部屋の中。

視界にはなにも映らない。

ここはどこだ?

自分が横たわっていることは、何となく感じることができた。

多分たっていることは難しいだろうということは、感覚的に把握でき、そのことに気づくと徐々に全身の神経がくまなく悲鳴を上げていることも同時に感じるようになる。

それは、かつて経験したことのないほどの痛み。

全身が一つの血管になって収縮しているような、大きなどくんどくんという脈動に、繊細な神経が刺激され、自分の肉体が極めて危険な状態にあることを知らせている。

そうか。

思い出した。

自分の住む高層マンションの踊り場から、ぼくは視界の良く開けた地上に誰もいないことを確認して、飛び降りたんだ。

おぼろげながら蘇ってくる記憶によると、ぼくはそのことを決めてから処方されていたのに手を付けていなかった、睡眠誘導剤を大量に水と共に喉の奥へと無理矢理流し込んだ。

おぼろげに覚えているのは付けっぱなしのテレビから、ロシア戦線の戦況がやや我が国に不利な状況になっているというニュースが流れていた。

ぼくには関係ない。遠くの場所で誰が死のうと、誰が生き残ろうと。

最前線の兵士さえ、この1年のぼくの苦しみに勝てるとは思えなかった。

そう、ぼくはこの戦いに負けたんだ。

テレビでは、日本の最新兵器が形勢を逆転しつつも、敵の新兵器の投入により、若干押し戻されつつあるという状況を、評論家が説明していた。

そのテレビを切ることもなく、ぼくは薬が全身に広がっていくのを確認し、ソファから立ち上がって、玄関のドアを開け、フラフラしながら非常階段の踊り場にでて、手すりに上り、思いっきりジャンプした。

衝動的にそうしたわけじゃない。ずっと、そうする日を待っていた。

それを決行した、決定的な出来事は、彼女からのメールだった。

「もう想いもないのに、連絡されると気持ち悪い」

そうか、そうだったんだ。

なんだかんだといいながら、最後の連絡手段であるケータイのメールをブロックしなかったのは、どこか、まだ彼女はぼくのことを必要としていたのだろうと信じていた。

でも。

1年後の誕生日にぼくが送ったメッセージへの、彼女の答えは

「気持ち悪い」

だった。

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